🟦 1. はじめに
長く続けてきた仕事。それは私にとって「すべて」であり、同時に、どこか見えない“鎖”でもありました。
限界や違和感を抱えながらも、「自分にはここしかない」と思い込んでいた日々。
この記事では、しがらみを断ち切る決意と、支援機関での自己発見・成長の実感を通して、私自身の歩みと本音を綴ります。
🟦 2. 前職との関係で感じていた限界
「長く続けてきた場所を離れても、本当に大丈夫なんだろうか。環境を変えて、私はちゃんとやっていけるんだろうか――」
正直に言えば、ものすごく怖かったです。
なにが怖いのか。それは今まで必死に維持してきたものを失うこと。
関係者が増えることで、自分の負担も増えて、すべての整合性を自分ひとりで取ることが困難になること。
過去に、仕事の関係者や複数の支援機関、家族、それぞれの「こうあるべき」が同時に私に降りかかり、支援の思惑がバラバラのまま一斉にぶつかってきたことがありました。
どれもが善意からであり、支援を求めたのは私自身です。だからこそ「拒否は許されない」と感じ、全員の期待や指示を同時に満たそうとしていました。でも、現実には私には記憶障害と注意障害があります。誰が何を言ったのか混ざってしまい、言っていないことまで“記憶”としてよみがえることさえあります。
それでも「自分が何とかしなければ」と思い込み、ひとりで抱え込もうとしました。しかし、あの時の私は、認知症で免許返納した高齢者に高速道路を運転しろと言われているようなものでした。
実際に起こったのは、記憶がごちゃごちゃに混ざり、「誰が何を求めていたのか」わからなくなり、誤解や作話が増え、支援者を傷つけてしまう。その結果、「またか!」という怒りが湧き、「周りが私を苦しめる!」と心の中で叫び、でも最終的には「自分が悪い」と責め、自分で自分の行動を禁止しはじめました。そして、支援者が一人、また一人と離れていき、私は孤独だけが残りました。
この経験から、支援の窓口はできるだけ一本化できるとありがたいというのが切実な願いです。
また、私の障害上、やり取りは必ず「文章」で何度も繰り返すことが大切です。口頭でのやりとりは正確に伝わらないどころか、作話が入り悪い方向へ進んでしまう――今はそう考えています。
しがらみはいつも背後にまとわりついてきて、離れようとすると必ず追いかけてきて、私に絡みついてきました。
「この場所にしがみつくしかない」と思い込んでいたのは、まぎれもなく私自身です。
🟦 3. 新しい場所での経験とフィードバック
「自分には何か強みがあるんだろうか。新しい環境で本当に受け入れてもらえるのかな――」
私は、受け入れられるかどうかは、受け入れ側の経験値がとても大きいと思っています。
人は「未知のもの」を本能的に拒みます。なぜなら、どう対応すればいいか想像できないからです。
私自身もそうだし、受け入れる側もきっと同じです。
特に高次脳機能障害の場合、「万人が異なる特性を持つ」と言われています。私と全く同じ特性を持つ人はいません。
そんな中で、「どこまで受け入れてもらえるか」は実際に入ってみなければわからない。でも、“想像できない”ことに挑戦しなければ何も始まらない――それが今の実感です。
🟦 4. 第三者評価がもたらした変化
「他人の評価や、周囲の言葉で本当に自分を変えることなんてできるの?」
結論から言えば、変わります。滅茶苦茶変わります。
私は自分でも驚くほど無理をし続けてきました。高次脳機能障害を抱えたまま、普通以上の成果を出そうとあがき続けてきました。
その結果、自信を完全に失い、何もできないと悟り、二次障害も発症しました。
でも、その私ですら、第三者――特に専門家――からの評価によって、少しずつ自信を取り戻すことができたのです。
「病前の自分が最大の壁」だと感じていました。でも気がつけば、その壁すら乗り越えていました。
他人からの評価は、根拠のない自信ではありません。「専門家からの評価」だからこそ、自信の根拠になるのです。
🟦 5. 自分の強みを活かせる自信と実感
「自分の障害や苦手なことも、何かの役に立つことがあるのかな?」
以前の私は、「ピンチはチャンス」という言葉を受け入れられませんでした。障害を持つことがプラスに転じるなんて、とても思えなかった。
でも最近は、考えが変わってきました。障害があることで、それを乗り越えるための工夫が必要になる。その工夫は、単にマイナスをゼロに戻すためだけのものではなく、関連する周囲の力もプラスの方向に働かせることができる――そう実感しています。
これは、自分の“弱さ”が周囲に新しい力を生み出す現象なんだと思います。
🟦 6. 鎖を断ち切る決意──新たな環境への一歩
「それでもやっぱり、前に進むのが怖い。迷いが消えない時はどうすればいいんだろう――」
私の場合、突然能力を奪われ、何をするにも失敗ばかり。信用を失い、疑われ、仕事を任せてもらえなくなりました。
必死に挽回しようとしても失敗は増え、さらに状況は悪化。ついには自分自身すら信じられなくなり、「何もしないのが最善」という答えに行きついたのです。
人生をかけて培ってきた強みのすべてを失いました。
それでも、私を覆したのは専門家の目でした。その目がある世界とつながれたことで、少しずつ自分を取り戻せたのです。
🟦 7. おわりに
「結局、どうしたら自分を信じて一歩を踏み出せるの?」
答えはまだ完全に分かりません。でも、少なくとも今の私はこう思っています。
――焦らないこと。
当事者は、常に焦ってしまいます。焦って行動すると、だいたい悪い方向に転がる。
だからこそ、「急がなくていいよ」と言ってくれる存在がありがたかった。
――“味方”だと信じてもらえる行動をとること。
私は自分自身すら信じられない時期がありました。それでも、そばにいてくれる人、否定せず、寄り添いながら一緒に考えてくれる人の存在は、何よりの支えになりました。
自分の価値は、ひとつの環境や誰かの評価だけで決まるものではありません。どんな場所でも、“あなたらしさ”を活かせる瞬間が必ずある。
この文章が、今まさに悩んでいる誰かの背中を、ほんの少しでもそっと押せたなら――それが私の願いです。
「あなたは、どんな“鎖”を感じていますか?」