就労移行支援は“訓練”ではなかった。私を取り戻す場所だった

高次脳機能障害 × 生きる力

同じように迷っているあなたへ

障害を負ってから、私はしばらくのあいだ「自分の立ち位置」を見失っていました。
仕事も、生活も、人間関係も、以前のようにはいかず、自信をなくし、自分を責め、ついには心療内科に通うことになりました。

そんな私が再び歩き出すきっかけになったのが、就労移行支援施設でした。

ここでは、専門家の支えや、他の利用者との関わりのなかで、「再出発のためのヒント」を少しずつ見つけることができました。

この文章では、私自身が経験した就労移行支援のリアルと、そこで得た気づきを章立てでお伝えします。

同じように、不安や迷いの中にいる方に、少しでもヒントや安心が届けられたら嬉しいです。


自分が自分でなくなる恐怖

障害を負うというのは、ただ身体や認知機能の一部が損なわれるだけではありません。もっと深く、もっと静かに、自分という存在そのものが揺らぐ出来事です。

私が就労移行支援を受けようと思ったきっかけは、まさに「自分の立ち位置を見失った」ことでした。

かつて私は、仕事の中で自分の価値を証明し、役割を果たし、周囲から頼られることで“自分”を形づくっていました。しかし、障害を負ったことで、そのすべてが崩れました。記憶、集中力、思考のスピード──失ったものにばかり目が向き、「こんな自分に、社会の中での居場所なんてあるのだろうか?」と、何度も自問しました。

私は無理をしすぎて、ついには心療内科に通うことになりました。周囲に迷惑をかけたくない、今までのように働きたい──そう願えば願うほど、現実とのギャップに苦しみ、自分を見失っていきました。


訓練の場所ではなく、自分を取り戻す場

そんなときに出会ったのが、就労移行支援施設でした。

最初は戸惑いもありました。まるで“訓練施設”のような響きに、自分がさらに下に落ちていくような感覚すらありました。でも、実際に通い始めて気づいたのは、そこが「自分を再び見つけ直す場所」だったということです。

ここでは、生活リズムを整えることが評価されます。同じ時間に通所する。約束を守る。他者と共に過ごす。今まで“当たり前”だと思っていたことを一つひとつ丁寧にこなすことが、再び社会に出るための力になっていきます。


専門家の目線から見える新しい自分

また、支援員の方々は、私の強みや課題を“専門家の目線”で見てくれます。自分では見えていなかった能力や傾向をフィードバックしてくれるのです。最初は「そんなはずない」と思ったことも、よくよく考えてみれば確かにその通り。納得できるものばかりでした。


「試せる場所」があるという安心

そして、何より大きかったのは、「試せる場所」だったことです。就職してからでは許されないような失敗も、ここならやり直せます。自分の限界を知り、自分に合ったやり方を模索する。その実験ができることが、どれほど貴重か──社会の中では、それがいかに難しいかを痛感していたからこそ、ここでの時間は本当に大切に思えました。


多様性を知ること、共に生きること

他者との関わりの中で感じたことも多くあります。同じ障害を抱えていても、困っていることは人それぞれです。自分にとっては簡単なことでも、他の人にとっては大きな壁であることもある。その逆もある。そういう“多様性”に毎日触れることで、私は「他者と共に生きるとはどういうことか」を学び直しているように思います。


もう一度、自分の足で立つために

就労移行支援施設は、ただの“社会復帰のための訓練場”ではありません。そこは、「もう一度、自分の足で立ち上がるための足場」です。

私がこの場所で得ているのは、技術や知識だけではありません。

──「今の自分でも、ちゃんと立てる」

その実感こそが、何よりの成果だと思っています。

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