忘れるのが怖いから、繰り返してしまう
私は「くどい」と言われます。
たしかに、同じ話を繰り返してしまうこともあるし、確認がしつこいと思われることもあります。
でも、それにはちゃんと理由があるんです。
私は高次脳機能障害による記憶障害があります。
忘れるのは日常茶飯事。しかも、「忘れたこと自体を忘れている」ことも多いんです。
だから私は、忘れてしまって迷惑をかけたくない。
同じ失敗を二度としたくない。そう思って、何度も何度も確認します。
「ヤマアラシのジレンマ」を感じるとき
私が一番つらいのは、
自分の記憶障害でミスをして相手に迷惑をかけたくないから、不安で何度も確認しているのに、
「くどい」と言われてしまったときです。
その瞬間、まるで「ヤマアラシのジレンマ」のよう。
本当は相手に寄り添いたいのに、その気持ちが逆に距離を生んでしまう。
気をつかえばつかうほど、お互いの間に見えない壁ができてしまう。
このすれ違いは、とても苦しいものです。
質問をしない自分へ──“あきらめ”と“自衛”の間で
「くどい」と言われた経験から、
私は「もう質問をしてはいけないのだ」と思うようになりました。
納得がいかなくても、「相手がそういうのだから、そうなのだろう」と、半分あきらめた気持ちになりました。
そして、「もしこのままミスが起きたとしても、それは相手の責任だ」と考えるようになりました。
本当は迷惑をかけたくないし、失敗したくもないのに、向こうは気にしていないのだと自分に言い聞かせるしかありませんでした。
その結果、私は自分から連絡する回数を減らし、極力何も言わないようになりました。
それで関係が消えてしまうなら、それでも構わない。そんな投げやりな気持ちが生まれてきてしまうのです。
信頼が持てなくなったから、必要以上の準備をする
そうして私は、
「どんなことが起きても対応できるように、相手に気付かれないよう裏で複数の準備をする」ようになりました。
普通にコミュニケーションが取れていれば、一つの準備で済む場面でも、私は最低でも三つは用意するようになったのです。
これは、もう相手を信用できなくなっている証拠だと思います。
それでも外れる時があり、その際に相手が「いつも準備が足りない!」と言おうものなら、心の中で激しい怒りが湧きあがります。
「こんなに裏で頑張っているのに、それでも責められるのか」と――まさに理不尽そのものです。
感情の行き場は「記録」に託す
私は、この理不尽さや怒り、悲しさ、悔しさを、すべて「記録に残す」ようにしています。
ノートやアプリに、
- 今どんな恨みの感情を持っているか
- 自分がいかに正しかったか
- この先どうするべきか
などを、ひたすら書き出します。
記録しているうちに、少しずつ感情が整理されていきます。
「どうしても納得できない」と思うことも、まずは書いて残す。
すると、どこかで「これで一度リセットしよう」と、新しい世界に進む準備ができるようになるのです。
“くどさ”の根底にあるのは、「見下されたくない」という切実な願い
私が何度も確認をしたり、繰り返し伝えてしまうのは、絶対にミスをしたくないからです。
なぜなら、
「やっぱりあなたは障害者だ」
「ほら、また失敗した」
――そんなふうに見下され、差別されるのが本当に怖いからです。
実際、障害を負った瞬間から、今まで仲間だったはずの人たちが、手のひらを返したように疑いの目を向け、見下し、攻撃してくる――そんな現実を何度も目の当たりにしてきました。
それが、どれほどありえないことで、どれほど心に傷を残すか、きっと想像以上だと思います。
“白鳥のように”――水面下で必死にバタバタしている当事者の現実
私たち当事者は、「白鳥のようなもの」だと、よく思います。
水面の上では、穏やかに、何事もないように見えていても、
実は水面下で必死に足をバタバタさせている――そんな毎日です。
「くどい」と思われる確認や繰り返しも、その“水面下の必死な努力”の一つです。
人知れず、ミスをしないよう、誰にも迷惑をかけないように、ありとあらゆる手を打ち、用意をし、不安と闘い続けているのです。
どうか、その“見えない努力”にも目を向けてほしい。
私たちがなぜ「くどく」なってしまうのか、その裏にある必死さを、少しでも想像してもらえたら、それだけで救われる気がします。
まとめ:“くどさ”は防衛反応であり、誠実さの証です
私の「くどさ」は、単なる迷惑でも、相手を困らせたいからでもありません。
自分が間違えたくない、相手に迷惑をかけたくない、
そして何より、「障害者だからダメだ」と見下されたくない。
そんな強い気持ちから、どうしても確認が多くなってしまうのです。
「しつこい」と思われても、それは裏を返せば、
“本気であなたや仕事を大事に思っている証拠”だということ、どうか、少しだけでも伝わればうれしいです。